私の初めてを捧げた相手は、大学生活で同じマンションに住む…

 

 

 

 

学生マンションで出会った彼に片思い

 

地方で生まれ育った私は、幼いころから東京に憧れを抱いていました。
東京に遊びに行くたびに、なんて夢のような信じられない場所なのだろうとワクワクしたものです。

 

すれ違う人も電車も食べ物もお店も何から何まで田舎のそれとは違うように思えて、自分も東京という場所に仲間入りしたい、いや仲間入りしてやるぞと意気込んで大学受験に臨みました。
希望通りの大学の合格を勝ち取り、晴れて長年の夢が叶い東京の大学生になれたのでした。

 

大学生になったらもちろん恋愛することしか考えていませんでした。(笑)
早く彼氏を見つけて、幸せに暮らしたい。

 

頭の中はもうそれだけ。
私は学生だけが住める学生マンションで一人暮らしを始めました。

 

女子中・高で育ったこともあり同年代の男性とすれ違うだけでも、みんながみんなカッコよく見えてしまうという男子慣れしていない状態の私。
エレベーターに乗る際、先を譲られただけでその人を好きになりそうになるくらい。

 

 

そして

 

「何階ですか?」

 

なんて聞かれたときには降りたい階を告げることに極度に緊張したり、ワントーン声を高くして答えたりなんかしてそれはもうドキドキときめく毎日でした。
そんなある日、ピーンポーンと玄関のインターフォンが鳴りました。

 

のぞき穴から見てみると、茶色の少し長めの髪がよく似合うその時代に流行った風貌の男性が立っているではありませんか。
その時自分が着ている部屋着がおかしくないことを確認していざ玄関を開けると、彼は

 

「隣に友達が住んでいるから遊びに来たんだけど、その隣の部屋にどんな子が住んでいるのか知りたくて来ました。

 

ピンポンして良かった!こんなに可愛い子が住んでるんだもん!!

 

僕も同じマンションに住んでるし友達になってよ!」

 

とドラマですか?と思いたくなるようなセリフを自然に発したのです。
男性に面と向かって可愛い子なんて言われたら、そりゃあもう舞い上がるしかありません。

 

しかも同じマンション!
こんな状況で舞い上がらない人なんていないはず。

 

彼のそのセリフを聞いた1秒後には、私は彼を好きになっていました。
一体どこの大学に通っていてどこ出身なのか?

 

加えて名前すら知らないけれど、私に優しくしてくれてカッコよかったら他に何もいらない。
片思いでもいいからとにかく好き。

 

若かった私はそう思うのでした。
その日から頭の中は彼のことだらけ。

 

同じマンションに住んでいるのですから遭遇するチャンスはたくさんあるし、いつピンポンされてもおかしくないし。
自分から彼の部屋に行く勇気はまだないので、彼のほうからまた来てくれることを強く強く願い、いつ来てもいいように部屋着は着やすさでなく可愛さ重視に変えました。

 

彼は週に3回は部屋に来てくれました。
深夜私の部屋の電気がついていたから居ると思って来たんだ。

 

とか、大学からそろそろ帰ってくる頃かなと思って来てみた。
とかいって、朝昼晩関係なく。

 

必ず玄関を出たところの廊下で話をしたいといって、部屋には入ろうとしません。
これまたポイントアップ。

 

気軽に女性の部屋に入らないとはなんて紳士なの!
下心が見えないのはとってもカッコいい。

 

好感度アップの条件です。
そしていい匂い。

 

見ているだけで、隣にいるだけで幸せを感じるのでした。

 

 

 

人に好かれる会話術【男女兼用】

 

いつもテンション高めの彼がいつになく気を落としている様子だった時、聞けばおばあちゃんが病気のために先が長くないとのこと。

 

これを聞いてまたポイントアップ。
そんな大事なことを私に打ち明けてくれてうれしい。

 

彼はおばあちゃん思いの心優しい青年なんだなと…。
男性のいつもと違う面を見ることができるのは新鮮でいいものです。

 

別の日彼氏はいないのかと彼に聞かれました。
正直にいないことを告げる私。

 

「付き合って」

 

なんて言われたもんならすぐにOKしちゃうことは自分でわかりきっていたし、こう頻繁に会いに来てくれるのだから

 

「彼も私のこと好きだよね」

 

という確信がだんだんと強くなってきている時期でもあり先を大いに期待しました。

 

でも彼氏の有無を聞かれただけで、なんの進展もなく終了。
こういうところが、私の好きな気持ちに拍車をかけるのです。

 

じれったいというか、思わせぶりというか。
ずるいというか。

 

一体彼の気持ちはどうなんだろう?
私の片思いなんだろうか?

 

頭の中でそんな思いがいつもぐるぐる。
片思いは胸が高鳴ってキュンキュンする時期を過ぎると、どこか切なく苦しいそんな気持ちもしていました。

 

ある日友達が数人集まっているからおいでよと電話で誘われ、彼の部屋へ初めて行きました。
同じマンション内で行き来ができる日が来るなんて、夢にまで見ていた光景。

 

若者たちが親の存在を気にせずに、時間に関係なく気軽に訪問できて帰ることができるのはそれはもう素晴らしく良い環境でした。
男女3人ずついる中でも、彼は私のことを

 

「可愛いよね!」

 

を連発。

 

ほかの人がいる前でも言ってくれたことに、私は有頂天。
そしてもしかしたら片思いじゃないかも、両想いにちがいないと確信するのでした。

 

でも同じく遊びに来ていた女の子から気になる一言をもらうことになるのです。

 

「〇〇君は、気を付けたほうがいいよ。」

 

そう言われる理由が全く分からない私。
だから私に対するやきもちで言ってるのね、と思うことにしましました。

 

でも数か月後に、彼女からのこの言葉の意味を痛いほど知ることになるのですが…。

 

 

 

 

 

 

またまた別の日。
学校から帰っている途中で彼から電話がきました。

 

風邪をひいて辛いのだそう。
よし!ここは私の母性の見せ所!

 

とはりきって薬局で薬を購入し、初めて彼の部屋を訪れることにしました。
薬は好き嫌いがあるだろうからたとえ飲んでくれなくてもよくて、それよりも薬を渡すということは彼の部屋に行く一番の理由になってくれました。

 

弱っているところを私に見せてくれるなんて嬉し過ぎちゃうと思いました。
辛いときに私のことを思い出してくれていることに。

 

これはもう彼も私のこと好きだよね?
必要としてるよね?

 

と自信を持ちました。
そして病気のときでも、いや病気の時こそ私を選んでくれた彼に尽くしてあげたいという思いとともに、私だけの片思いのはずがないとさえ思っていました。

 

ついに彼の部屋へ。
彼は寝ていました。

 

買ってきた薬を置いて

 

「大丈夫?」

 

とかなんとか言ってみたものの内心はドキドキ。
だって暗い部屋、布団、彼と2人きりなのだから。

 

その日彼は私の初めての人となりました。

 

翌日

 

「風邪、治ったよ。」

 

と言いに私の部屋を訪れた彼に、玄関で押し倒されそのまま2度目の関係を持ちました。
風邪が治った報告なんて口実に過ぎないと今でははっきりわかるけれど、当時の私は分かろうともしなかったし分かりませんでした。

 

いつも甘い言葉を巧みにあやつる彼に、片思い・両思いどころでなく私が一方的にのめりこむことになるのです。
だって体の関係があったら、それは間違いなくお互いが好きだからでしょう!

 

と何も疑わない若い私がそこにはいました。

 

 

翌日もその翌日も、時間を問わず彼はやってきました。
シャワーまで浴びて帰る日もありました。

 

でも考えてみたら、彼としていることといったら体の関係を持つことだけ。
事が済んだら彼はすぐ帰ってしまい、会話をするとか二人で出かけるとかまったくしていないことに数か月経ってから気づきました。

 

鈍くて愚かな私がいけないのか、彼がいけないのか。
そんな関係でも私は彼に必要とされていることが何より幸せで、来るたびに彼の求めに応じる日々。

 

彼の部屋に行ったときに見つけた彼のいい匂いの元のジャンプ―と同じものを買ってみたり、食べていたレトルトカレーと同じものを買ってみたり。
彼が好きだというアイドルと同じ髪型にしてみたり。

 

彼色に染まろうと努力するも、結局彼から「付き合う」などの言葉は一度も聞くことはありませんでした。
それなのに体だけの関係は数年続きました。

 

嫌われたくない・・・。
と思う私がいました。

 

だっていつも

 

「可愛い、可愛い。」

 

と言ってくれるから。

 

ようやくこれではいけないと気付いた私に、彼とは別の本当の彼氏ができました。
付き合うってこういうことなのかと初めて理解できたころ、マンションのエレベーターで鉢合わせ状態になることが何回もありました。

 

私と彼と体の関係だけの片思いしていた彼と。
まさか片思いしていた彼がベラベラとしゃべり出すんじゃないだろうね?

 

とビクビクしながらエレベーターに乗り合わせる数秒は生きた心地がしませんでした。

 

私と知り合いだという雰囲気も出してほしくありませんでした。
今の幸せを壊さないでほしかったのです。

 

学生マンションを満喫していた数か月があるだけに、学生マンションを厄介だと思うことになるとは思いもしませんでした。
私に本当の彼氏ができてからも、片思いしていた彼は平気で訪ねてきました。

 

「彼氏、よさそうな人じゃん!」

 

とか言いながら。
そしてお決まりのスキンシップ。

 

それ以上は踏み入ってはいけない道のはず。
許してしまいそうな自分にもあきれながら追い返すのでした。

 

片思いの彼との思い出は、どうしても消し去ることができずにいます。
あの匂いも忘れられないまま。

 

遊ばれただけという悲しい結末ではあるけれど、それ以上にいろんな初めての感情を経験できたことが私の中で大きな存在なのかもしれません。
優しくて少し甘い言葉を素直に表現できる人には今でもやっぱり惹かれます。

 

弱みを見たとき見せてくれた時にも。
そして思わせぶりな態度は様々な想像を掻き立てられて、より一層魅力を感じてしまう自分がいます。

 

未練はこれっぽっちもないので安心していますが、10代最後のこの淡い出来事は私の中にずっと残ったままでしょう。
ご購読ありがとうございました。

 

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